消滅時効とは何か――起算点・所有権の例外・2020年改正を整理

消滅時効

権利は持っているだけでは意味がなく、行使してこそ意味があります。民法の消滅時効は、権利を長期間行使しなかった場合にその権利を消滅させる制度です。

今回は、消滅時効の意味と趣旨・債権の時効期間と起算点・所有権が消滅時効にかからない理由・2020年改正による短期消滅時効の廃止について整理します。


目次

消滅時効の意味と趣旨

意味

消滅時効とは、権利者が権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利が消滅する制度です。債権・債権以外の財産権(所有権を除く)が対象となります。

趣旨

消滅時効が設けられている理由は主に3つです。

第一に、長期間にわたって権利行使されなかった事実状態を尊重し、法律関係を安定させるためです。

第二に、長期間経過後は証拠が散逸して権利の存否を立証することが困難になるため、その不都合を解消するためです。

第三に、権利の上に眠る者を保護する必要がないという考え方です。


債権の消滅時効(民法166条)

2つの起算点

2020年改正後の民法166条は、債権の消滅時効について2つの起算点を定めています。

主観的起算点(知った時から5年)

債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときに時効消滅します(民法166条1項1号)。債権者が債権の発生と行使可能性を「知った」時点が起算点です。

客観的起算点(行使できる時から10年)

権利を行使することができる時から10年間行使しないときにも時効消滅します(民法166条1項2号)。債権者が知っているかどうかにかかわらず、客観的に権利行使が可能になった時点が起算点です。

どちらが優先するか

2つの起算点のうち、いずれか早い方が到来した時点で時効が完成します。たとえば、債権発生から8年後に債権者が債権の存在を知った場合、知った時から5年(発生から13年後)と発生から10年のうち早い10年が優先します。

具体例

売買代金債権の場合、売買契約成立時に支払期限が定められていれば、その期限到来時が「行使できる時」です。債権者がその時点を知っていれば、主観的起算点と客観的起算点は一致します。5年で時効消滅します。


所有権は消滅時効にかからない

規範定立

所有権は消滅時効にかかりません。民法166条2項は「債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する」と規定しており、所有権を明示的に除外しています。

理由

所有権が消滅時効にかからない理由は、所有権の性質にあります。所有権は物を全面的に支配する権利であり、権利を「行使する」という概念になじみにくい側面があります。所有者が土地を利用していなくても、所有権を「行使していない」とは一般的にいいません。

また、所有権に消滅時効を認めると、所有者が長期間不在にしている間に所有権が消滅するという不合理な事態が生じます。

取得時効との関係

所有権は消滅時効にかかりませんが、他者による取得時効の成立によって間接的に失われることがあります。他人が20年間(善意無過失なら10年間)占有し続ければ取得時効が成立し、元の所有者は所有権を失います。消滅時効ではなく取得時効によって所有権の帰属が変わるのです。


短期消滅時効の廃止(2020年改正)

旧法の短期消滅時効

2020年改正前の民法には、職業ごとに異なる短期消滅時効の規定がありました。たとえば、医師・薬剤師の診療報酬は3年、弁護士の報酬は2年、商人の売掛金は2年など、職業や債権の種類によって1年・2年・3年の短期時効が定められていました。

廃止の理由

短期消滅時効は、種類が多くわかりにくい、現代の実情に合わない、という批判がありました。また、ITやサービス業など新しい職種への対応が困難でした。2020年改正でこれらはすべて廃止され、原則として「知った時から5年・行使できる時から10年」に統一されました。


時効期間の一覧整理

主な時効期間を整理します。

債権は、知った時から5年または行使できる時から10年(いずれか早い方)です。確定判決等で確定した債権は10年です。不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年または不法行為時から20年です(人の生命・身体への侵害は5年・20年)。

所有権以外の財産権(地上権・地役権・抵当権等)は、行使できる時から20年です。所有権は消滅時効なしです。

取得時効は、善意無過失の場合10年、それ以外は20年です。


まとめ

消滅時効の核心は「権利の上に眠る者は保護しない」という考え方です。2020年改正で債権の時効期間は「知った時から5年・行使できる時から10年」に統一され、短期消滅時効は廃止されました。

所有権は消滅時効にかかりませんが、取得時効によって間接的に失われる可能性があります。消滅時効と取得時効は表裏一体の関係として理解しておくと、時効制度全体の構造が見えやすくなります。


免責事項:本記事は行政書士試験を勉強中の運営者が、学習内容を整理・言語化したものです。法的助言・法律判断・代理行為を行うものではありません。個別の法律問題については、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。

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